怪しい探検隊アフリカ乱入/椎名誠著

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あやしい探検隊アフリカ乱入

両親、特に父親が椎名誠好きで、家には何冊も本があった記憶がある。

自分自身は、椎名誠の本をちゃんと読んだ記憶はないが、家族の影響もあるし、雑誌のコラム等ではよく目にしていたので、ずっと身近には感じていた。

これも、父親か母親から貰ったもの。
200頁ほどのエッセイだが、楽しみながら一気に読んでしまった。

 
以下、心もしくは気に留まったところ。

インドやアフリカにはまってしまう旅人は多く存在するが、両方にハマる人はあまりいないという。

おもしろいことに、アフリカ好きはインドに対してそれほどでもなく、インド好きはアフリカにたいした興味を持たないという極端な嗜好性があるのだという

どうなのだろう、実際のところは。
両方にハマるには時間が足りないだけのような気もするが。

 
暑さには「ねっとり派」と「べったり派」があるらしい。

インドはどちらかというとねっとり派である。とくにボンベイはその暑さが甘い香りをもって体にまといつくと言われている。曽野綾子の書いた小説で、ボンベイのねっとりとした甘い暑さと闇というものをぼくはかなり前に知った …… たしかに何か官能的な、男の鼻孔をくすぐる甘い気配を持っているような気がした。

ケニアのナイロビに到着して筆者はこう感じた。

アフリカはもっとザラリとした荒々しく攻撃的な熱気をその日感じた。歩いていくと、熱を持った闇の粒子が体に触れて、その流動していく軌跡を感じるような、たとえていえばそんな闇である。

椎名誠に限らないが、こういった、感覚的な表現が巧みな文章を読んでいると、「今自分はきちんとした作家の文章を読んでいて、それを楽しんでいるなー」と、読書をわかりやすく満喫することが出来る。

ちなみに、曽野綾子氏のボンベイについて書いてある小説は何なのだろう。「人間の罠」かもしれないが、さだかではない。

 
ナイロビのヘビ園に行って。

アフリカ人たちも結構ヘビを日本人のようにこわごわ興味深く覗いているのがぼくにはおかしかった。…… アフリカといえども都市の人は、ヘビなどよほどのことがない限り自然のものを見ることはないらしい。

ま、そりゃそうか。著者と同じ感想を持った。

ゴング・ヒルについて。

ゴング・ヒルこそ、カレン・クリステンツェ・ディネーセンの書いた『アフリカの日々』の舞台そのもの…… 日本では『愛と哀しみの果て』というどうしようもない邦題がつけられていた。この『アフリカの日々』の映画は実に荒々しくも叙情的な大人の映画で、その主人公となったカレンさんを映画ではメリル・ストリープが演じていた

この邦題をつけた人の罪は重い。この映画の名前は知っていても、椎名誠のこのプッシュがなければ、この邦題ゆえ観るのをためらってしまう。

 
著者の憧れの対象であるマサイ。ホテルのデモンストレーションで目撃して。

佐藤秀明はこう言った。こういう都会にやってきているんだから、あれは「堕落マサイ」だと。けれどいかに資本主義に身をやつしていても、あの男の目つきは野生動物のそれを思わせるほど眼光鋭く、うかつに近づくと即座に槍を投げられそうな気配がある。

彼は住み込みでそこに勤めており、もう長いこと部落に帰っていない。食事は毎日焼いた肉とかスパゲッティとかそんなものばっかりで、「もうイヤになっちゃった。早く部落に帰って思う存分牛の血を飲みたい」と言うのだ。堕落マサイでも牛の血を飲みたいと言うところなど、心はまだマサイそのものなのだなと思ってぼくはうれしかった。

著者の少年のようなマサイ好きの気持ちが伝わってきて、微笑ましい。

 
バッファローの危険性について。

バッファローというのはアフリカの中で最も獣性の激しい、アホ的なヤバイ獣で、わけもなく人間を見ると突っかかってくるんだそうである。だからアフリカにはライオン、ゾウ、ヒョウといろんな恐ろしげな獣がたくさんいるけれども、その中で最もバッファローが危険だという話だ。

 
楽園のようなマサイ・マラのコッターズ・キャンプについて。

このコッターズ・キャンプは大草原の真ん中にあるのだが、とてもきれいなところで、清潔そうな、しかも大きなバンガローがたくさん並んでいる。…… 粗末だが味わいのあるバーのカウンターもあって、そこには冷たいビールがおいてある。何という夢のようなすばらしい場所だろう。

冷えたビールがあるってだけで、かなりポイント高い。

キャンプ村の周囲の木にはたくさんの小鳥たちが舞って踊り、鳴いて飛び、遠くではおびただしい数のサルたちがかん高い声をあげて枝から枝へと飛び移っているのが見える。…… 原色だけの別天地だ。青すぎる空、白すぎる雲、いくつもの深い緑を交差させた周囲の木々。

サファリで一番の至福の時間は暮れていく地平線の紅を眺めながら、冷たいビールをグビリグビリやることである。

猛烈に行ってみたい欲を掻き立てる文章だ。

試しにコッターズ・キャンプをネットで調べて見ると、どうやら正確な名前は「Cottar’s 1920s Camp」と云うよう。お値段はミッドシーズンのテント泊で$800ほど。最低2泊かららしいが、この$800が1泊分なのか2泊分なのかがわからない。

 
著者曰く、一般的に多くの原住民は、昼間っからだらしなく酔っぱらっているケースが多いという。

これはアメリカ・インディアンにしても、カナダ・イヌイットにしても、オーストラリアのアボリジニにしても、みんあ似たような堕落ぶりが目につく。たぶんこれは彼らが悪いのではなく、彼らのあとから入っていった為政者たちのやり方に問題があるのだ。…… 負い目があるからなのか、たいていどの国も保護政策という名の、いわゆる生活保護の金銭援助を行なっている。そのためにネイティブの多くは政府から支給されるおカネで労働意欲を失い、昼間から酒を飲み、生活を破壊し、身をもち崩すというスタイルになりやすいのだ。

確か、辺見庸氏の『もの食うひとびと』という私が大好きなエッセイの中でも、インドネシアかマレーシアの原住民の、似たような状況が紹介されていた記憶がある。

その中で、マサイはかたくなにその伝統的な生活スタイルや、生きて行く考え方を変えず、誇り高い姿勢をキープしているという。

マサイの村を訪問し、家の中を見せてもらうと。

マサイ族の主食は牛の血と牛の乳を混ぜたもので、それはいまだに続いているんだそうだ。血とミルクを混ぜたものは牛の皮でつくったヒョウタン型の筒に入れられている。このヒョウタン型の筒を洗うのは牛の小便という話だ。

まさに、マサイは牛と共に生き、牛と共に生活している。
都会で、肉を食べるとか食べないとか、乳製品を食べるとか食べないとか言っているのと次元が違う。

 
唐突ではあるが、北海道とロシアの女性の共通点について。

北海道の女は強い。それは日本のほかのどこの地域よりも常に自然環境的に厳しいということが一つの原因であるのかもしれない。それからもう一つは、歴史が最も浅い。…… 開拓時代、厳しい仕事に男も女も区別して目の前の労働に当たるなんてことはできなかったのだろう。

また、ロシアやカナダなどの北方の国の女性が男女平等の気概に満ちて力強いのも、裏づけになっていると。
北海道のどこに住むかで、大きく変わる気はするが、一理あるのかもしれない。

世界で最も離婚率が高いのはソ連である。そして日本で最も離婚率の高いのは北海道である。

現在はどうなっているのか調べたら、厚労省が2015年1月1日に発表した『人口動態統計の年間推計』によれば、日本の離婚率は1000人あたり「1.77」で世界第6位。
ワースト5は、(1)ロシア 4.5、(2)アメリカ 3.6、(3)ドイツ 2.19、(4)イギリス 2.05、(5)フランス 1.97 となっており、ロシアは変わらず世界1位の座を維持している。アメリカもそうだが、日本の2倍以上というのは感覚的に凄い。

国内はどうなっているかというと、2014年9月に公表されたデータによると、(1)沖縄県 2.59、(2)北海道 2.09、(3)大阪府 2.08、(4)宮崎県 2.08、(5)福岡県 2.04、が上位5位。
わたしの想像通り、沖縄がダントツ1位だった。北海道は大阪や宮崎と僅差ながら2位。1位ではないにしても、高いことは事実だった。

 
キリマンジャロを目指す途中、タンザニアに入り、レストランでビールを注文すると…

ひそかに期待しひそかに恐れていたロシア・ビールが出てきた。(ケニアの)タスカーと全く味も気配も違う、ロシアの馬ション・ビールである。…… 残念ながらまだぼくは馬の小便を飲んだことはないのでその比較は正確にはできないが、確かに実にまず。

アフリカの灼熱の地であっても、タンザニアは社会主義の国なのだ。

 
標高4,700mのキボハットに着いたところで、著者は高山病にかかる。これ自体は驚くことではないが、登山に慣れた大蔵氏から「攻撃的に順応しよう」と提案された対処法が興味深かった。

彼の言う「攻撃的」とは、そこからさらにまた休むことなくキリマンジャロ方向への斜面を登り、そして降りてくるのだという。…… 痛む頭をかかえ、三島とぼくは大蔵のあとに続き、小屋の上の斜面をさらにまた200メートルほど登っていった。…… 頭は痛く吐き気は続くが、そのダメ押し的200メートルの攻撃的対処がよかったのか、寝袋に入って体を縮めてガタガタしているうちに、やがて眠ってしまった。目が覚めると、不思議なことに体の不調はあらかた解消していた。

すべての人に通用する方法かどうかはわからないが、覚えておこう。

なお、ユンケルが高山病に効くと知人に聞いて、キリマンジャロにも持っていってたらしいが、飲んで5分後に吐き、さらに体調が悪化したとのこと。

 
無事登山を終え、山小屋に戻ってビールを飲み、用意してきたラーメンをつくる。

これまで世界のずいぶんいろんなところへ行ったが、クライマックスのあとのビールとラーメンがほんとうに一番うまいとつくづく思う。

そりゃ、そうだろう。心から共感。こういう時は、こってりしたトンコツじゃなく、あっさりした醤油ラーメンが良いに違いない。

 
最後に、夢の話。

夢というのは、人が聞いてもあまりおもしろいものではない。本人は非常に話したがるのだけれど、人の見た夢を聞くというのはけっこう辛いものである。それは、人の結婚式のビデオを見せられるのと等しいくらし面倒なことである。

これは納得。夢の話は、確かに人に喋りたくなる。しかし、人から夢の話を聞いてもたいして面白くはない。

 
ゆったりと読書を楽しませてくれつつ、旅に出たい気持ちにも火をつけてくれる良書。

本書内の怪しい探検隊の面々は、いまの自分と同年代。自分も歳をとったことを認識させられるが、彼らの姿に刺激も受ける。このシリーズの他の本もいずれ読むことになるだろう。


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