【書評・感想】 沈まぬ太陽/山崎豊子著

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

sizumanutaiyou
友人から借りたままでありながら、5冊からなるというボリュームに圧倒されたまま先送りになっていた作品をようやく読むことができた。

何よりも、基本的にノンフィクションをベースとしていることに、大きな衝撃を受けた。
(少なくともこの作品が世に出された頃は)日本を代表する企業であったJALにとどまらず、運輸官僚、族議員の内情を明らかにするにあたっては、出版社ともども相当の覚悟が必要だっただろう。

本作では、経営側と組合の闘いが、一つの大きなテーマとなっている。
私自身、組合を強く意識するような企業で働いたこともないし、今と時代が違うということもあるが、様々な問題が詰め込まれていて刺激的だった。

・経営側と慣れ合った組合。組合委員長は出世コースに乗る、まさに御用組合。
・逆に本作の主人公が先導した組合と会社の戦いの壮絶さ。従業員の権利を持ち出すと、すぐにアカ、共産党(「代々木」と呼ばれる)と見なされる短絡的思考。
・パイロット、客室乗務員、整備職、地上職など、職務によって大きく業務内容が異なることから複数の組合が存在し、それぞれの組合間の関係は必ずしもうまくいっていないという混乱ぶり。

などなど、総理大臣の命をうけて単身改革に乗り込んできた鐘紡の会長をもってしても如何ともしがたかった、組合問題の根の深さの一端をうかがい知ることができた。

 
そして、組合問題もそうだが、本作が、何万人と働く大企業内の、ほんの一部のドラマティックな面々についてとりあげていることは百も承知していながらも、保身に走る人間の多さ、汚さ、残酷さには心底辟易とさせられた。

JALに乗ることさえ憚られるほど。

そう思う読者は多いだろうし、この作品がJALの経営に与えた影響は計り知れないと思う。
結局、この本が世にでた数年後にJALは破たんする。
誰もJALを変えられなかったんだなと本を読んだ皆が思ったことだろう。

 
もう一つのテーマが、サラリーマンの悲哀。そして振り回される家族。
時代の違いはあれど、ノンフィクションベースだからこそ伝わってくるリアリティがある。

 
御巣鷹山編は壮絶過ぎて言葉にならない。
強烈な情景が頭にこびりついて離れない。

 
ベストセラーだから批判があって当然ながら、ネットで調べてみるに本作への評価は分かれている。
なかでも、主人公が実際は日航機墜落事故の遺族係ではなかった点や、赴任先で生活をエンジョイしていた点が批判の的となっているようだ。
しかし、私個人的には、遺族係であろうとなかろうと本作の本質は変わらないと思うし、家族と離ればなれで一人遥けき土地へ飛ばされているなかで気を紛らわせていなかったら狂ってしまうだろう。

ただし、ノンフィクションをベースとしていることを本の最初にわざわざ記していることや、ノンフィクションだからこそ、より面白く感じられる面が多いところは否定できないので、人によっては評価が分かれるのは仕方ないだろう。

 
最後にひとつ、作品の内容とは関係ないものの、心に残った描写を紹介。
それは、「日の出も美しいが、余韻がある分、夕陽に惹かれる」という主人公のセリフである。
今まで考えたこともなかったが、自分も確かにそうだと実感した。


サブコンテンツ