衝撃的な内容が波紋を呼んだ「完全自殺マニュアル(鶴見済著)」を読んで

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完全自殺マニュアル
この本は1993年7月に発売され、相当な話題を呼んだ。
わたし自身、自殺願望なんてさらさらなかったが、本屋で立ち読みしてその衝撃的な内容に、つい買ってしまったものだ。

内容的に、時々読み返したい類の本ではない。
今回もそろそろ処分しようと思い、その前に一読してみた次第。

作者は1964年生まれ、東大出身。
文章に岡崎京子のような、80年代後半90年代前半のサブカル臭がプンプンする。

特に、前書きにあるようなこういう表現。

テレビのドラマみたいなハッピーエンドはない。ただグロテスクな“ハッピー”が延々と続いていくだけだ。そう。キーワードは「延々」と「くり返し」だ。延々と続く同じことのくり返し。これが死にたい気持ちを膨らます第1の要素だ。

僕たちの誰かが死んだって、必ず別の誰かが代わりにやってくれる。誰ひとりとしてかけがえのない存在なんかじゃない。僕たちひとりひとりが無力で、いてもいなくてもどうでもいい存在で、つまり命が軽いこと。これが死にたい気持ちを膨らます第2の要素。

ただの自殺解説本だったらそれほど売れなかったのではないだろうか。
サブカル本としてのクオリティの高さは、今読んでも衰えていない気がする。

脳という人体の制御装置を、クスリによって緩やかに失調させて、「自分」というシステム全体を破壊する。

多少、文学的なのだ。だから読みやすい。

致死量の曖昧さこそが、生と死の境界のあやふやそのものを表していると同時に、薬物自殺を難しくしている最大の原因だ。

やや文学的でありながらも、いかに自殺するかが主テーマだという点からは逸脱しない。

手首を少し切ったぐらいで死ぬことはまず絶対にありえないが、ここにあげたクスリは、飲めば本当に死ぬ。

いたずらに煽ることもしていない印象。
人には多かれ少なかれ自傷衝動が走ることはあるのだと思う。
そういう時に、リストカットはしてもいいが(良くはないが)、薬物は致命傷になると。

いちばん避けなければならないのが、飲んだクスリを吐き戻してしまうことだ。

クスリを早く吸収し、効果的に急性中毒を起こすためには、胃のなかに食物が残っていてはいけない。ただし空腹すぎると、必要以上に過敏に反応してしまい、吐き出す危険性があり、そのバランスが難しいのだ。

アルコールを同時に飲むことは必須条件だ。中枢神経に作用するクスリには、相乗効果があるし、どのクスリに対しても溶解速度を速め、併用したときの効果は50%アップするとも言われる。

効果的に死ぬテクニックが散りばめられている。

数時間以内に見つかるようなことがあれば、自殺も未遂に終わり、鼻から水を入れて胃のなかにためて吐かせることを何度もくり返す、胃洗浄の苦痛を味わわなければならない。

だから、人に見つかりにくいところ(たとえばホテル)で決行しなさいと。
上の一文を読んだだけで、胃洗浄の苦痛が想像されてつらい。

ここには記さないが、市販で売られている薬をどれだけ飲めば致死量になるかについても、事細かく説明されている。
しかし、それらの薬のうちいくつかは現在市販されていなかったりする。
おそらくこの本の影響力があまりに大きく、自殺志願者が薬を求めて殺到し、問題となったのだろう。

80年代にせき止め液を一気飲みして、軽くトリップする遊びが流行ったことがある。せき止め剤には、脳内のせき中枢に作用してせきを鎮めるコデインや、気管を広げるエフェドリンといった麻薬性物質が含まれているためだ。

こんな遊びが流行ったのは知らなかった。

マニキュア除去剤は、化粧品のなかでもっとも危険な製品だ。

確かに、匂いからしてもちょっと刺激的な香りがする。

なお、名前は聞いたことがある人が多いであろうトリカブトは、殺人事件に使われて脚光を浴び、一時的に売れ行きがよくなったらしい。てっきり動物かと思っていたら、植物だった。

本書とは直接関係ないが、何の気なしにトリカブト殺人事件を調べてみたら、毒の配合に思いのほか手が込んでいたようで驚いた。(参考:トリカブト保険金殺人事件 – Wikipedia

塩でも死ねないことはない。致死量は300g。醤油を1升ほど飲んで死んでしまうひとがいるのは、このなかに約14%の食塩が含まれているため。

醤油で死ねるイメージがまったく湧かないが、よく聞く話ではある。

首吊り以上に安楽で確実で、そして手軽に自殺できる手段はない。人類が考え出した芸術品と言ってもいい。

”芸術品”とはよく言ったものだ。
このくだりは、初めて本書を目にした20年前から強烈に印象に残っている。

首吊りの最大の長所は未遂率が極端に低いことだ。

首を締める場合と吊る場合の違い。前者の死因は、気道が塞がれることによる窒息死が多いが、後者の場合は、脳内にいく血液が遮断されて脳内が酸欠状態になったためである場合が圧倒的に多い。

首を吊るとすぐに意識が遠のき、手も足も動かそうにも動かせず、しかもこの過程でまったく苦痛はない。

ある研究によると、首を吊って1分から1分半で意識は薄れ全身に痙攣が起こる。男性の場合、なぜか性器が勃起して射精してしまうこともある。その後、3分から3分半ほどで仮死状態となり、大小便や精液を洩らし、眼球が飛び出して、呼吸が止まる。この段階ではまだ心臓は動いているが、10分ほどで心臓が停止する。

10分でこの世とオサラバ…

 
続いて、飛び降り。

女性の10代までの自殺者の50%は飛び降りで、他を大きく引き離している。

これはまったく知らなかった。
なぜなのだろう。本能的に男女で違うのだろうか。

確実に死にたいのなら、地上から20m以上、だいたい7〜8階以上から飛び降りること。4階あたりからの飛び降りなら、成功率は50%程度。

ゆっくりと落ちているように感じ、意識が非常に明確で、不安や恐怖がまるでなく、夢を見ているように気持ちがいい。

ある医学者によると、足から落ちる人がもっとも多く、その場合、60%の人が頭に外傷を負い、30%が脊椎を骨折し、肝臓と肺の損傷が20%、心臓破損が25%。

手首を切って死ぬ確率は5%と言われている。

泳ぎが得意な人でも溺れてしまうメカニズムについて。

水を飲んだり吐いたり、咳き込んでいる間に口と耳をつなぐ耳管に水が入る。この水がピストン運動を起こして三半規管を覆う部分を出血させ、急性循環不全によって三半規管に機能障害を起こす。こうなるとカナヅチと同じだ。息を吸い込もうとすればするほど、かえって気管に多量の水が入り喉の痙攣が起こり、ついには息がつまって意識を失い水中に沈む。

意識を失ったあとは、まずは水中で大きく息を吐き、次に肺いっぱいに水を吸い込んで呼吸が停止する。むせ返りがはじまっえから意識を失うまでは1〜3分、死亡するまでは、淡水では4〜5分、海水では8〜12分程度かかるといわれ、心臓が停止するまでに20〜30分程度かあかることもある。それでも水中で2分以上経過してしまうとまず助からない。

2分って余りにも短い。話が逆にはなるが、ライフセーバーもスピードが命なのだろう。

とにかく焼身自殺は苦痛に満ちた死に方である。即死できないことくらいは頭に置いておこう。

先日の新宿での騒動が思い起こされる。

気温5度、無風、半裸体、空腹の状態なら、1日以内に凍死する危険性が高い。また水中では、水温15度で凍死の危険性が高く、5度の水温だと数時間浸かっていればやがて死亡するし、一瞬にして心臓停止を起こすこともある。

水温15度でも死んでしまうというのは驚き。

直腸体温35度で疲労感、倦怠感や眠気が出てくる。34度から33度になるとだんだん思考力が減退して、意識は朦朧とし、”甘美な恍惚感”に襲われるという。30度から26度で意識を失い、そのまま死に至る。25度まで下がれば、もはや救助は不可能だ。

そして、あとがき。

こういう本を書こうと思ったもともとの理由は、「自殺はいけない」っていうよく考えたら何の根拠もないことが、非常に純朴に信じられていて、自殺するような人は心の弱い人なんてことが平然と言われていることにイヤ気がさしたからってだけの話だ。「強く生きろ」なんてことが平然と言われている世の中は、閉塞してて息苦しい。息苦しくて生き苦しい。だからこういう本を流通させて、どん詰まりの世の中に風穴を開けて風通しを良くして、ちょっとは生きやすくしよう、ってのが狙いだ。生きたきゃ勝手に生きればいいし、死にたければ勝手に死ねばいい。生きるなんて、たぶんその程度のものだ。

出版当時、この本は相当な議論を巻き起こしたし、相当世間にたたかれただろう。
それでもwikipediaによると100万部以上売れたらしいし、今でもamazon他で安価で簡単に手に入れることができる。

この本がきっかけで自殺した人も少なくないだろうし、その家族はたまらないだろう。
この本に、作者に、出版社に恨みを持っている人もいるのだろう。

決して、この本自体は自殺を勧めてなんかいないし、自殺する気が全くない人が読んで自殺したくなる本でもない。
それでも、自殺しようと思う人に勢いをつけてしまう本ではある気はする。
普段から自殺しようと思っている人が、この本があるから肩の力を抜いて生きて行けるというのもなくはないんだろうが。

この本が人類にとってプラスなのかマイナスか。
判断が非常に難しい本ではある。


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