【書評・感想】 十八歳、海へ/中上健次著

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18saiumihe
学生時代に読んだものの、内容をまったく覚えていなかったので再読。

18歳~23歳に中上健次が書いた短編作品をまとめたもの。
1946年生まれだから、時代は1964年~1969年。

テーマとしては、性、死、都会と田舎、音楽、喧嘩、親子関係といった普遍的なもの。
若い時に書かれたものだけあって、若さが隅々まで濃厚に漂っている。

性がらみでは、ちょくちょく抑えきれない性衝動への憎悪なのか、過剰な意識なのか、「ペニス」「精液」を示す言葉そのものなり比喩なりが登場する。

おまえの精液の臭いでむんむんするペニス、いやだね。勃起ばかりさせて。まだ十八歳なんて

俺の体臭と言うと、せいぜい水っぽい精液の臭いか、背中のあたりに洗い忘れた石けんの臭いだった

のように。

この”匂い”に加えて、”痛み”を表現する箇所も印象に残った。これが中上健次の神髄なんだろうか。

特に、主人公が6人がかりでボコボコにされるシーンの描写が印象的だったので以下に書き残す。

群の中で一番大きな体をした男の右腕が、俺の腹部を殴りつける。次の瞬間、柔らかい苦痛と痙攣が俺の毛のはえた腹部からわきあがり全体にひろがった。左手のこぶしが俺の顔面を殴りつけた。黒く眩暈のような衝撃。「速くのばしてしまえ!」怒声がおこった。俺は体をたてなおし、周囲をとりまいている群の突破口をさがすため、いちべつした。「畜生!」俺は一番小さな体格の、驚くほど俺と相似している男にむかって突進した。よろけるようにしながら走り寄り、力いっぱい小さな男の下あごをなぐった。男の下唇が切れ、じわじわと脹みながら、赤い血がにじんできた。

にきびのやたらに吹き出た顔の男が俺の股間を蹴りあげた。胸が悪くなる程の鈍い痛みがおこる。俺は弱々しい俺の陰嚢をおさえて、しゃがみこんでしまった。群れが一度に笑った。

二人の男に両腕をささえられた。女のような赤いシャツを着ている、いつか学校で出会った男が口笛をふき、映画に出てくるやくざ男のように、いきなり俺の鼻っぱしらを殴った。じいんと衝撃がおこり、まひした鼻腔より鼻血が流れて俺のワイシャツをぬらした。

両頬が腫れあがっている。赤黒くかたまった血が顔中に、ワイシャツにこびりついている。群は俺が立ちあがることもできなくなったのを知ると、つばを吐きかけて散ってしまった。

登場人物の感情がざらざらしていて、時代は違えど、自分が似たような心境にあった20代前半の時には直視できず、受け入れられない作品だったことがわかった。
今なら受け入れられる。

作者が育った和歌山県の新宮がたびたび登場する。
自分自身も二度ほど訪れたことがある街だけに、情景が浮かびやすかった。

また、複数個所で、「ハイミナール」や「ドローラン」などの単語が登場する。
調べてみると、もとは睡眠薬や鎮静剤だが、今でいう脱法ドラッグ・合法ドラッグとして若者の間で流行していた薬物とのこと。

なお、今読んでしても、短編のうち2/3ほどは読もうとしてもまったく頭に入ってこないので飛ばさざるをえなかったことを記しておく。


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