【書評・感想】 剣客商売/池波正太郎

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kenkyakusyoubai

数年前に友人から誕生日プレゼントとして貰ったうちの一冊。

今まで二の足を踏んでいたのは、そもそも自分が歴史小説、剣豪小説に関心が薄かったことと、本作のタイトルの固さ、そして、装丁というか表紙絵の固さにあった。
しかも、読み切りではなく、何冊もあるうちの第一冊目であるという点も。

しかし、読み始めてみると、イメージしていた硬派感を吹き飛ばす、柔らかいストーリー。

剣客の秋山親子が主人公なわけだが、若い頃は剣の道を極めていた父・小兵衛も、六十になり二十歳の下女に手をつけ、このごろは剣術より女のほうが好きになったと息子・大治郎へ告げる。その息子は女に目もくれず、剣術に勤しむ。

親子共々剣の腕は優れ、勧善懲悪的な痛快なストーリーは、漫画的ともいえる。
いわば(剣ではないが)ドラゴンボールに、ややお色気を上乗せした戦闘コミックと言っても過言ではない。
だから、読みやすい。

剣と、江戸の田沼意次の時代という背景と、剣士という特殊な生き方と、男女の関係性と。

オトナのための娯楽作として、クオリティの高い作品である。

気に留まった表現。

(斬って倒されてきた)人々の怨恨は、勝った者が、何らかのかたちで負わなくてはならぬもの。それが剣客の宿命。

これは、小兵衛が大治郎の身を案じる際に、たびたび登場する心持ち。

下女のおはるは小兵衛に「祝言をしてくれ」とせまり、小兵衛は大治郎に、おはると「夫婦の盃をかわしたい」と告げるが、「祝言」や「夫婦の盃」という言葉も今はなかなか耳にしない。

なお、自らも剣術に優れ小兵衛に親愛の情をいだく佐々木三冬は「おはるの存在など、歯牙にもかけぬ」。「歯牙にもかけぬ」という表現は、剣豪小説向きだなと思い至った。

徳川将軍の威令の下に、諸大名がそれぞれ領国を統治している。だから、殺人犯人が他国の領内へ逃げこんでしまうと、これを藩庁が捕らえることができない。
このため、殺された者の肉親が犯人を追って行き、親族のうらみをはらすと同時に、殺人犯人に制裁をあたえることが、武家社会の間に、不文律の制度として容認されたのである。
ゆえに、武家社会においては、父なり兄なりの敵を討って帰らぬかぎり、その家名をつぐこともならぬ。

こんな、習わしがあったとは知らなかった。

Amazonの本作の書評を見ると皆似たようなことを書いているが、軽い気持ちで読み始めたのに続きを一気に買いたくなってしまう、そんな種類の作品ではあることは間違いない。


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