マラソンやトレイルランニングレースでの行動食の補給計画についての考察

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

雑誌『山と渓谷』(以下、「山渓」)の2016年10月号に行動食についての記事が掲載されており、なるほどなるほどと思いながら読んでいたのだが、そこの情報だけだと釈然としないところもあったので、さらに情報を集めてみることにした。

まず、「山渓」では、行動中に消費するカロリーを簡易的に計算できるものとして

エネルギー消費量[kcal] = 活動強度[メッツ] x 体重[kg] x 時間[h]

という式を紹介している。

この「メッツ」とは、身体活動の強さと量を表す単位として、厚生労働省が管轄する国立健康・栄養研究所が定めているもの。
下の表を見てみると、おそろしく細かく規定されていることに苦笑してしまう。

例えば、「歩く」一つとっても、散歩なら3.5メッツ、犬の散歩だと3メッツ、階段を上る(ゆっくり)4メッツ、松葉杖を使って歩く5メッツ、競歩6.5メッツ……と細かいこと。
他にも、卓球4メッツ、ゴルフ(全般)4.8メッツ、ビリヤード2.5メッツ、ボウリング3メッツ、さらには、(業務で)ミシンをかける2.5メッツ、ドラムの演奏3.8メッツ、読書(立位)1.8メッツなどなど、これを誰が素案を作って、誰が了承しているのだろうか。実際に担当の人が一つ一つの動きをして何かを計測しているとも思えないが。
なお、性行動についても、受身の1.3から、積極的な2.8まで3段階で定められている。律儀だ。

【参考】改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』[PDF]

さて、余談はさておき、自分が気になるのはマラソンやトレラン関連なので、ランニングのメッツの値を見てみると、マラソンのゴールタイム2時間半前後のペースで15.2、3時間ペースで12.5、3時間半ペースで11.5、4時間ペースで10.5となっている。

つまり、体重60kgの人がフルマラソンを走る場合、

2時間半ランナー ⇒ 15.2 x 60 x 2.5 = 2,280kcal
3時間ランナー ⇒ 12.5 x 60 x 3 = 2,250kcal
3時間半ランナー ⇒ 11.5 x 60 x 3.5 = 2,415kcal
4時間ランナー ⇒ 10.5 x 60 x 4 = 2,520kcal

それぞれ、上のカロリーを消費することになる。
体感的にもそうだったが、タイムが遅くなればなるほど、消費カロリーは大きくなる。
(上の例でいうと2時間半ランナーは強度が高すぎて例外だろう)

では、トレイルランニングはどうだろうか。
これが、計算が難しい。
常に走っているわけではないし、上りもあれば下りもある。
距離が長くなると上りの歩く比率が上がる。
コースによっても大きく違う。

自分の感覚的には、均せば、50km(6~7時間)ぐらいまでのトレイルだとランニングの時のメッツとほぼ変わらず、70kmを超えてくるとランニング-1、100kmを超えるとさらに-1ぐらいの印象。

自分でいうと、ランニングは12メッツ程度なので、

50kmを7時間で走ると、12 x 60 x 7 = 5,040kcal
70kmを10時間で走ると、11 x 60 x 10 = 6,600kcal
160kmを35時間で走ると、10 x 60 x 35 = 21,000kcal

ぐらいのカロリーを消費すると考えればよいだろうか。

そして、これをベースに、行動食をどう摂るべきかを考える。

まず、前提として、身体に蓄積されている糖質によるエネルギーはどれだけあるかというと、一般的に1,500~2,000kcalと言われている。
この数値を求める計算式を探したのだが見つからず、「山渓」にもさらっと書いてあったに過ぎないが、ここでは仮に、男性は2,000kcalとしておこう。

例えば、3時間ランナーの場合、上のとおり、2,250kcal前後のカロリーを消費するから、足りない250kcalを補えば良い。
一般的なショッツのようなエナジージェルは1つ(150g前後)で120kcal程度。
つまり、2つから3つのジェル補給をすればいいことになる。

一方でトレイルランニングはどうだろう。
100マイルレースを35時間完走を目安に臨むとすれば、足りないカロリーは、21,000 – 2,000 = 19,000kcal。
35時間で割ると、1時間あたりに補う必要のあるカロリーは543kcal。
レースの場合、エイドで摂るカロリーも大きいので一概にはいえないが、1時間あたり543kcalも摂取しながら走るのは至難の業だ。

以前、どなたかのブログに、30分に1つジェルを摂ると書いてあって驚いたものだが、この計算からすると、それでも足りないことになる。

543kcalは無理にしても、毎時平均でエイドも含めて300kcalを摂取できたとすると、もともと蓄えてあった2,000kcalの糖質のエネルギーが枯渇するのは、単純計算するとスタートから7時間後。

糖質のエネルギーが枯渇したとはいえ、いきなり動けなくなるわけではない。
身体の中には、もう一つのエネルギー源である体脂肪(脂質)がある。
しかし、体脂肪は、糖質と比較して、エネルギーに変換されにくく、時間もかかる。

さらに大事なことは、脂肪の燃焼には糖質が必要であり、肝臓や筋肉中のグリコーゲンが枯渇すると、脂肪が燃焼されずに運動が継続できなくなってしまうということ。
だから、脂肪を燃焼させるためにも、引き続き行動食を摂り続ける必要があるのだ。

なお、糖質には、いくつか種類があり、吸収スピードが異なる。
単糖類(ブドウ糖、果糖)は早く吸収され、多糖類(でんぷん、グリコーゲン)はゆっくりと吸収される。
即効性が求められる行動食としては単糖類のほうが適しているのだが、問題は単糖類は血糖値を急上昇させ、その後、急低下させがちということ。

では、血糖値を急上昇させない単糖類はあるのかというと、GI(ジーアイ)の値が低いものであれば問題ない。(※GIとはGlycemic Index[グリセミック・インデックス] の略)

以下が、各食品のGI値。

高GI(70以上)… グラニュー糖、うどん、白米、餅、食パン、大福、せんべいなど
中GI(56~69)… パスタ、レーズン、パイナップル、カステラなど
低GI(55以下)… 玄米、そば、ライ麦パン、お粥、アーモンド、バナナ、りんご、アボカドなど

要は、うどんや白米のご飯よりも、そばやバナナ、リンゴが適していると。
また最近、行動食にナッツやバナナチップを摂っているランナーが増えているが、これは理に適っていることになる。
もちろん、ショッツなどの代表的なジェルは、血糖値が上がらないように工夫して作られている。

翻って、選手として大事なのは、

1.運動前に肝臓や筋肉中のグリコーゲン貯蔵量を高めておくこと
2.脂肪をエネルギーに変えやすい身体づくりをすること
3.(特に長い時間がかかるレースに出る場合は)元気なうちから細目に糖類を摂取すること

1.についてはいわゆるカーボローディングだが、諸説あるものの計画的に行わないと難しそうな印象。
一方、2.については、空腹時(例えば、起床直後)に長距離を走る練習を積むことで、身体が変わっていくと言われている。
そして、一番簡単ですぐに実践できるのは、3。

もともと栄養学には興味があったが、こうやって調べてみると、より一層興味が高まった。
いずれはもっと踏み込んだ内容についてまとめていきたい。


サブコンテンツ